今週のお題「名作」
※若干のネタバレを含みます。ご注意ください。
『劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦』感想
ゴールデンウィーク最終日。
ひとりで映画を観に行くという息子のプランに、飛び入り参加した。
前から計画していたわけでも、とくに観たいものがあったわけでもない。
ただ巷で話題の『ハイキュー!!』というアニメが気になってはいた。
数時間後に始まるというので、ほとんどお化粧もせずに出かけた。
ほんの直前まで「これバスケの話やろ?」と言っていたくらい、なにも知らない状態で臨んだ。
どこにでもありそうな青い空と白い雲で始まるオープニング。
どこにでもありそうな路地では、三毛猫と真っ黒な大ガラスが対峙。
カラスが落とした羽根に不吉なものを感じたのは、昭和時代のアニメを見て育ったからだろうか。
しかし物語は不穏な空気を纏うことなく、おだやかにゆるやかに進んでいく。
この映画のすごいところは、小手先の演出に走ったり、お涙ちょうだいシーンが皆無であることだ。
部員とマネージャーの恋模様はおろか、主人公が抱えたトラウマや伏線などもない。
本当に、ただ純粋に。
ひとつのボールをがむしゃらに追いかけ
落とさないよう、ていねいにパスで繋ぎ
3回以内の打数で相手のコートへと返す
という当たり前のシーンが、繰り返し映し出される。
試合が始まりしばらくして。
わたしの頭にひとつの疑問がよぎった。
(1時間半近くの上映時間を、まさか…まさかこの1試合だけで持たせるつもり…か?)
いくら凄いワザを繰り広げられたとしても、それではさすがに飽きてくるだろう。
しかしそんな気持ちをビシィィッ🏐と床に叩きつけられてしまうくらい、わたしはバレーボールの世界へと引き込まれていった。
バレーボールのことはよく分からないのに。
手に汗握る、目の回るような試合展開。
孤爪研磨、日向翔陽、クロ、ツッキー…
登場人物たちの繊細な心の動きが、鼓動が。
手に取るように伝わってくる。
けして一言ではいい表せないけれど。
もし一言で言い表さないといけないとしたら。
これは「今」という時代を巧みに反映した良質なエンタメ。
全編を通してとても風通しがよく、気持ち良く観られる爽やかな名作だ。
令和と昭和のアニメ比較(当社比)
思えば「スポ根」を含む多くの昭和アニメはこうだった⇩
- ど根性命
- 勝つことが正義
- 努力すれば夢は叶う
- 悪は滅びる(勧善懲悪)
- 監督や先輩などの命令には絶対服従
- 主人公には(脇役にも)暗い影がある
- なんか知らんけど大きな使命を背負っている
- 稀有な境遇(孤児院育ち、罪を犯したなど)
- 不治の病におかされている(白血病が多い)
- 貧乏などが理由で、スポーツで大成する以外の選択肢がない
- 誰かのため、または所属する団体の名誉のために戦っている
- 自分がやりたいことでなくても頑張る(自己犠牲に走りがち)
- 横文字の大仰な技を持っている(ギャラクティカマグナムやブーメランテリオスなど)
アニメに限らず、あらゆる芸術作品は時代を映し出す鏡だ。
社会情勢や、その時代に大切にされた通念などがそのまま形となって表れる。
昭和育ちのわたしは、いつ登場人物に悲劇が訪れるのかと、ずっとハラハラしていた。
試合中にケガをして再起不能になるか。
はたまた仲間の裏切りにあって人を信じられなくなるか。
でも彼らは永遠にラリーを続け、ひたすら点を取ったり取られたりしているだけ。
タイトルの『ゴミ捨て場の決戦』からも、猫とカラスが生き残りをかけて縄張り争いをするように、お互いを傷つけあいながら、ときには卑怯な方法で勝利を奪い合うストーリーを想像していた。
だが令和のアニメは、昭和のものとも平成のものとも違っていた。
敵を憎み、ただ倒すのではなく、共存し、成長するのだ。
昭和時代は、物質的な豊かさや名声を得ること、他人から良く思われることに人々は躍起になっていた。
いつも誰かのために戦い、そして生きていた。
今、状況は少し違ってきている。
自分がどう思うか。
楽しいか、楽しくないか。
人からの評価よりも、自らの心の声に沿って生きる登場人物に、これまでにない清々しさを感じた。
土の時代から風の時代へと変化を遂げる世界が、こんなところにまで表れている。
新しい時代の到来を思わせる、軽やかで明るい作品だった。
古い価値観は、必要なエッセンスだけを残して。
いらないものは、どんどん手放していく。
形だけのしんどいことや、実りのない不毛な争いごと。
そんなものはこれからの自分たちには役に立たないと、彼らは知っている。
自分自身が、自分軸で。
自分比で成長することに、より価値を置いている。
彼らはブリザードもトルネードも生み出さないけど。
着実に一歩ずつ、強くなるため前進していく。
ハッピーで前向きなお話なのに。
わたしは何度も泣いていた。
ガッツリメイクをして来なくて良かったと思った。
劇場を出たら無意識に叫んでいた。
『あー、楽しかったー‼️』
風の時代のおすすめアニメ
アニメは子供のもの、と思っている大人にこそ観てほしい。
日本のアニメは世界に類を見ないほど、奥が深いものが多い。
アニメファンの外国人や、一部の若い人のためだけにあるなんてもったいない。
良質なアニメは、良質な生き方の参考になる。
彼らの言う『もう一回が無い試合』のような瞬間をいくつも積み重ねて。
自分の心の赴くままに、風のように生きたいと思った。
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