デニッシュペストリーとプリンセスケーキ【機内食のおはなし】
「決戦の木曜日」がやってきた。
ケータリング会社のゲートグルメさんが、エアラインへの感謝の印として、クルーにデニッシュペストリーを差し入れしてくれる日である。
木曜日にデンマークを発つ便のみが対象なので、つぎはいつ当たるか分からない。
前回、痛恨の食べ忘れをしたから。
今回こそはと気合いを入れて、シップに乗り込む。
エピソード【デニッシュペストリー】
「どこを探しても見つからないんだ」
マティアスが肩をすくめて言う。
「水曜日だからじゃないの?」
ウルリカが弾んだような声を出す。
「今日は木曜日よ!きのうから楽しみにしていたんだもの!」
わたしの<本気と書いてマジ>な態度を見て、ハンナがこう言った。
「出発まで、まだ時間があるわ。届いたら、わたしの分もあげるから」
パーサーのビルギッタは、
「大丈夫よ。もし来なかったら、このフライト欠航にするから」
と言ってみんなを沸かせた。
お客さまが、つぎつぎに乗り込んでくる。
しかし、いっこうに「例のもの」が搭載される気配はない。
こんな〜はずじゃあ〜なかったよね〜♪
田原俊彦さんの昭和の名曲「悲しみ2ヤング」が、脳内をかけめぐる。
そうこうしているあいだに、お客さまはほぼ出揃った。
『もはやこれまで…』
と思った瞬間。
蛍光の黄色いベストを着た地上職員が、わたしに向かって
「Good tour(良い旅を)」
と言って背を向けた。
その背中に「Gate Gourmet (ゲートグルメ)」の文字!
『もしや!』
と思った刹那、マリアンがトレーを持って、後ろのギャレーへと歩いて行くのを確認した。
「よかったよかった。パーサーが電話をかけたら、連絡不行き届きで4つの部門にたらい回しされたそうだよ」
とセバスチャン。
有能なパーサーであるビルギッタは、完璧な出発準備のかたわら、抜かりなくデニッシュペストリーの手配をしていたのだ。
そして飛行機は、無事にコペンハーゲン空港を飛び立った。
ゴールデンウィークの中日だからか。
ふだんはびっしり埋まっている客席もまばらで、ゆっくりオヤツを食べる時間があった。
わたしは、真ん中のうずまきチョコデニッシュと、右下のシナモンロールをいただきました。
また息子から
「シナモンロールの写真、切れてんじゃん!」
って呆れられそう…
今日はお客様が少なかったので、機内食がけっこう余った。
サービスしながら
「これおいしそうだな」
と思っていたケーキも、たくさん余っていた。
それがこちら。
スウェーデンの名物デザート【プリンセスケーキ】
どうです?
おいしそうでしょう?
中はフレッシュなクリームとスポンジ 、ラズベリーのジャムでできている。
スウェーデンでは、これを「プリンセスケーキ」と呼ぶらしい。
セバスチャンは娘の洗礼式のために、このケーキを手作りしたそうだ。
ほかにもいろんなお料理を作ったので、当日の睡眠時間は約25分だったという。
朝の8時に寝て、8時25分に起きたんですって!(笑)
パパの愛情がいーっぱい詰まった、甘いスイーツである。
そして飛行機は、無事成田空港に着陸した。
搭乗口付近で、ハンドリング担当者が、いつものように機内の不具合について尋ねてくる。
エコノミークラスで働いていたわたしは、
「後ろは問題ありませんけど、前(ビジネスクラス)なにかあるか訊いてみますね」
と言って、パーサーのビルギッタを呼んだ。
彼女は、ハンドリングの女性に向かって
「夫が不具合だらけなの。あなた、直してくれる?」
と言って笑いを取っていた。
美人でお茶目。
こんなリーダーのもとだからこそ、楽しく仕事ができるのだ。
わたしたちもそうだが、彼らも一泊で自国に帰る。
短い時間だが、楽しい滞在であることを心から祈っている。
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