前回にひきつづき、外資系エアラインで働く日本人乗務員の、アナウンスにまつわる葛藤についてお話する。
今回は、「それ言うたらあかんやつちゃう」シリーズをとりあげる。
あれは、思いおこすこと数年前。
世界で初めて、シンガポール航空がエアバスA380型機を導入したときのことだ。
完成披露の時点では、ボーイング747型機を抜いて、史上最大、世界最大のジェット旅客機として、おおいに世間の耳目を集めたものだ。
ときを同じくして、わが社はシンガポール航空と到着時刻が重なり、近くのスポットに駐機することになった。
ある日、お別れのご挨拶のあと、キャプテンは言った。
「ごっつカッコエエ飛行機、隣におりますねん、見てみてー!」(ニュアンス)
いったいなにを言いだすのかと思ったら、他社さんの保有する機材を褒めちぎっているではないか!
ああ〜もう、なんて訳せばいい?
となりに停まっている違う会社の飛行機を、なんで宣伝しなきゃなんないの?
ぐるぐる頭を悩ませているうちに、降機の準備が整った。
わたしは日本語で、お客さまへの感謝の言葉だけを述べ、その日は終わった。
なんじゃ今日のアナウンス。
プライドってもんがないのか。
うちも頑張って、早くエアバスA380買お!
しかし、つぎのフライトでも、キャプテンは同じことを言っている!
キャプテン変われど、シンガポール航空への賞賛の言葉は止むことがない。
わたしは腹をくくった。
息子が小さいころから、ずっと言い聞かせてきたではないか。
お友達の良いところは、惜しみなく褒め称えようねと。
母親であるわたしが、こんなぴっこいマインドでいてはいけない。
「ただいま…みなさまの右手に…シンガポール航空が誇る世界最新鋭の翼、A380型機がご覧いただけます!」
わたしは言った。
いや、言えた。
キャビン中に響きわたる声で。
多少の痛みを伴ったが、清々しい気分だった。
このように、マニュアルにはないアナウンスに対応するとき、人としての度量が問われる気がする。
わたしはこの騒動で、またひとつコスモポリタンとしての階段を上がった(と思う)
機内アナウンス「窮地におけるユーモア」編はこちらをご覧ください💁♀️
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