ミセスCAのオン&オフ日誌

外資系CA /英会話講師 Vikiのブログ

【天は赤い河のほとり】もし、ユーリがラムセスと結ばれていたら【妄想パラレルストーリー】

【天は赤い河のほとり】もし、ユーリがラムセスと結ばれていたら【妄想パラレルストーリー】

 

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1.ヒッタイトを追われて

 

「ユーリ!ユーリ!気がついたか?」

「……ん、ん……」

ここは、どこ?

背中が焼けつくように痛い。 

まだ焦点の合わない視線のさきには、見覚えのあるひとりの男の顔。

右目が金色で、左目がセピア。

浅黒い肌、黄金の髪……

「ラムセス……」

「よかった……心配したんだぞ。なん日も眠っていたから」

「……ここは……?」

「おれン家だ。砂漠で行き倒れていたところを、つれて帰ってきた」

そうだった。

ナキア王妃の陰謀で、カイル皇子に皇帝暗殺の容疑がかけられたのだ。

わたしはザナンザ皇子と先に逃げろといわれて、宮殿を飛び出したのだった。

しかし道中で部下ゾラの裏切りにあい、皇子はわたしをかばって死んでしまった。

「皇子……ザナンザ皇子……」

肝心のカイル皇子も、その後のゆくえさえ分からない。

寝台に横たわったまま涙を流すわたしの頰に、ラムセスが口づける。

いつもみたいに、はねのける力がない。

それどころか、また意識が遠のいていく。

 

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2.エジプト【ラムセスの屋敷】

 

「兄さん、兄さん、フィアンセが目を覚ましたわよ!」

フィ……フィアンセ?

「おお!ユーリ、やっと起きたか!」

「ちょっとラムセス、あたしはあなたのフィアンセなんかじゃ」

抗議の声を、唇でふさがれる。

「っ……なにすんのよ!!」

ひっぱたいてやろうと思ったのに、するりとかわされてしまった。

「はっはっは!すこしは元気が出てきたようだな」

わたしの気持ちなんてお構いなしに、豪快に笑いながら、屋敷の主人は部屋の外へと消えていった。 

「ああ見えて、兄さんはとてもナイーブなのよ」

「あなたが意識を取り戻すまでのあいだ、ずーっとつきっきりで看病していたんだから」

「ウセルが女のひとをつれて来たのなんてはじめてよ」

「あなたって、ほんとうに愛されているのね」

あの男にそっくりな女たちが、つぎつぎに喋りだす。

「あ、あなたたちは?」

「ラムセス家の姉妹よ。兄さんはうちの、たったひとりの跡取り息子なの」

そうだ。

ラムセスはエジプトの将軍。

ヒッタイト帝国のカイル皇子とは、敵対関係にあるのだ。

わたしはカイルのもとに帰るつもりでいたのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

「背中の傷も、しばらくは治らなさそうだし」

「引きとめるのには、じゅうぶんな口実ね」

「どうかゆっくりなさってね♡お姉さま」

「おねえ……!」

兄妹そろって、顔だけじゃなく性格まで似ているなんて。

なんだか先が思いやられる。

 

3.いずこも同じ 母の愛

 

この家にきて数週間がたったころ、ラムセスが言った。

「ずいぶん顔色も良くなってきたことだし、今夜はおふくろといっしょに食事でもどうだ?」

「えっ?」

おふくろ?

ラムセスのお母さん?

……てことは、このお屋敷の奥方さまよね。

縁もゆかりもないわたしが、いったいどんな顔をして会えばいいっていうの?

「い、いいよあたし!ホラ、その……着る服もないし」

怖気付くわたしを尻目に、ラムセスが指を鳴らす。

大きな扉が開いて、たくさんの侍女たちが入ってくる。

「こいつを着飾らせてやってくれ。エジプト中の、どの女よりも美しくな!」

「ちょっと待ってよ、ラムセス!」

彼が出て行くが早いか、わたしは侍女たちに取り囲まれてしまった。

 

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「おお!ユーリ、見違えたぞ!」

嬉しそうなラムセスには悪いけど、わたしはちょっとうんざり。

ヒッタイトの衣装もかなり窮屈だったけど、エジプトのドレスだって同じようなものだ。

だいいち、どうしてこんなにジャラジャラと宝飾品をつける必要があるのだろう。

「おまえはいつだって魅力的だが、今宵はいちだんと美しい」

ラムセスの言葉が聞こえないふりをして、わたしは壁際に立っている女性のほうに目を向けた。

「ああ、紹介しておこう。うちの女官長だ」

「姫様、お目にかかれて光栄です」

女官長と呼ばれるその女は、恭しくお辞儀をした。

「あの……奥方さまは?」

「調理場においでです。おけがでもなさったらたいへんだと申しますのに、ご子息の未来の花嫁に手料理をとおっしゃって」

「は、花嫁??」

そのとき、扉が開く。

「ユーリ姫!ごめんなさいね。パイがうまく焼けているか気になって、かまどを見ていたら遅くなってしまって」

初老の、だがとても麗しい顔立ちの貴婦人が入ってきた。

どこかで見たことのある、なぜかなつかしい面影。

「おれもユーリも腹ペコだ。すぐに食事にしよう」

豪華な客間ではなく、家族だけの居心地のいい空間。

日本にいたころは、いつもこんなふうに食卓を囲んでいたっけ。

お料理上手のママが作るごはんを食べながら、家族で笑いあって……

(パパ、ママ、毬絵姉ちゃん、詠美……)

ついこのあいだまで、わたしはふつうの高校生だった。

それがある日とつぜん、古代オリエントに呼びよせられた。

息子のジュダを皇位につけるため、カイル皇子を亡き者にしようと企むナキア皇后の生け贄として。

それからは、幾度も幾度も命を狙われて……

日本へ……みんなのところへ帰りたい!

ふと涙がこぼれ落ちた。

「姫……?エジプトの食事は、お口に合わなかったかしら?」

心配そうにわたしの顔をのぞき込む女性。

そうだ。

このひと、ママに似てるんだ。

「いいえ……とてもおいしくて……感動したんです」

 

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4.この舟はどこに

 

「来いよ」

ラムセスに導かれ、たそがれの川面に浮かぶ舟に乗る。

黄金の夕陽に照らされた水面が、きらきらと波打っている。

「さっき泣いていたろ」

「泣いてないよ」

「あの男が、そんなに恋しいか」

「ちがうよ!」

自分の語気の強さにハッとする。

そんなにムキになって否定することもないのに。 

カイル皇子のことは好きだ。

だけど、ラムセスにそんなふうに言われたくはない。

「おまえはたしか、遠い異国から来たんだったな」

やわらかそうな金色の髪が、かすかに風に揺れている。

端正な横顔。

鍛えられた、たくましい身体。

方法は違うけれど、カイル皇子と同じく、国を治めることになるであろう男性。

「……!」

ちょっと油断したすきに肩を抱かれた。

不意打ちをくらって、固まってしまう。

「ユーリ、おれの妻になれ」

状況を把握する間もなく、とつぜんのプロポーズ。

「おれの子供を産んでくれ。男ならとびきりの武将に、女ならかなりの美人になるぞ」

まだ結婚もしていないのに、いきなり子供の話とか!

あまりに唐突すぎて、気が遠くなりそうだ。

それに……

顔が近すぎる。

「きゅ、急にそんなこと言われても……信じられないよ!」

肩に回された手を払いのけ、なにごともなかったかのように立ち上がる。

そんなわたしの動きを制するように、ラムセスは言った。

「おまえが失ったすべてのものの代わりに、このあとはおれがなろう」

まっすぐな瞳が、わたしを射抜く。

その視線が強すぎて、おもわず話をそらせた。

「……あそこの睡蓮の花、きれいだねぇ」

「おまえのほうが、ずっときれいだ」

 

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歯の浮くようなセリフなのに、このひとが言うとドキドキするのはどうしてだろう。

そんな気持ちを悟られないよう、わたしは怒ったふりをする。

「どうせ舌の根も乾かないうちに、ほかの女性にも同じことを言うんでしょう?」

「もしかして、おまえ、妬いてんのか?」

なぜだかうつむいてしまったわたしの鼻を、指でギュッとつまんで笑う。

「……んもう!」

ちょっとでもときめいたわたしがバカだった。

「あっ!」

刹那、広い胸のなかに抱き寄せられる。

「悪かったよ。からかって」

もう押し返す力だって、じゅうぶん戻っているはずなのに、なぜか身体が動かない。

「国をつくるには、王と同じ器量の女が必要だ。おまえには、その素養がある」

「あなたは、あたしが役に立つから欲しいの?」

「最初はそのつもりだったがな。だがいまは……」

そのあと、ラムセスはなにも言わなかった。

なにも言わないかわりに、ずっとわたしを抱きしめていた。

 

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5.予期せぬ訪問者

 

ここに来て数ヶ月がたつというのに、依然としてカイル皇子の消息はつかめないままだった。

このままじゃ、ヒッタイトにも日本にも帰れない。

これから、どうすればいいのだろう。 

そんなある日、ラムセスがわたしを呼びにきて言った。

「ユーリ、おまえに客人だ」

エジプトには、わたしの知り合いなんていない。

いったい、だれが会いに来たのだろうか。  

「ユーリ!おお、やっぱりユーリだ!」

「…ザ、ザナンザ皇子!」

驚きで、息が止まりそうになる。

「つややかな黒髪で象牙色の肌をした娘が、この屋敷にいると聞いてね」

「ザナンザ皇子!生きていたんだね!」

カイル皇子の、腹違いの弟君であるザナンザ皇子。

わたしを守って、臣下の刃に倒れた。

死んだと思っていた皇子が、生きて、今ここにいる! 

かたく抱き合った肩越しに、見知らぬ女性の姿が目に入った。

「皇子、あそこにいるのは?」

「紹介するよ。わたしのたいせつなひとだ」

はにかむように会釈をする、若い女性。

身なりは粗末だがスタイルがよく、大きな瞳が印象的な美人だ。

「彼女の名はラウア。ベドウィンの娘だ。瀕死の状態だったわたしを助けてくれた」

ザナンザ皇子は、女性の肩を優しく抱いた。

「つい最近まで、わたしは意識不明だった。だが彼女の手厚い看病のおかげで、もういちど生きることができたんだ」

ふたりが強く愛しあっているのが、彼らの目の輝きに見てとれた。

「わたしはラウアを国につれて帰り、妻とするつもりだ」

「おめでとう、ザナンザ皇子」

「ありがとう。ユーリもはやく支度をして、兄上のもとへ帰ろう」

「えっ?」

「『赤い獅子』と呼ばれる新しい勢力を率いた兄上が、自軍と合流を果たした」

「カイル皇子が!」

「まもなく、オロンテス河畔で戦いがはじまるぞ」

「ヒッタイトとエジプトが戦争!」

とうとう、カイル皇子とラムセスが敵同士に!

恐れていた、最悪の事態に陥ってしまった。

 

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6.天は青い河のほとり

 

旅立ちの日がやってきた。

庭園の大きな椰子の木々が、風に吹かれてゆらゆらと揺れている。

「気をつけてな」

「……うん」

「おまえを、あの男にくれてやるんじゃない。ハットゥサの泉が…おまえが元の世界に戻れる唯一の場所だから…おれは行かせるんだ」

「ラムセス……」

「元気でな。どこの世界にいようが、おれはおまえを愛してるぜ」

ありがとう。

お世話になったね。

あなたのこと、忘れないよ。 

別れの言葉をいくつも考えていたのに、なにひとつ出てこない。

「舟が待ってる。さあ、はやく行け」

ラムセスに背を向けて、振り返らずに歩き出す。

でも振り向けばまだ、そこに彼がいる。

自信満々な態度。

キザなセリフ。

ときおり見せる、少年のような笑顔。

わたしを呼ぶ、低くて温かい声。

うしろを向いていても、彼のすべてがはっきりと思い描ける。

舟に乗り込もうと片足を下ろした瞬間、なにかが弾けた。

気がつくと、反対方向に走り出していた。

「あたし、帰らないよ」

自分でも予期せぬ言葉が、口をついて出てくる。

「あたしは帰らない。あなたのそばにいる」

ラムセスが呆然とわたしを見ている。

「あたしは導かれてこの世界に来た。あたしはその運命を…あなたといっしょに生きる!」

「おまえ……」

「あたしは帰らない。この世界で、ナイルのほとりで生きていく」

「ユーリ……」

「あたしの天は母なる流れ、あの青い河のほとりにある!」

かけよって、ラムセスの胸に飛びこむ。

「ユーリ!ユーリ!愛している!」

倍以上の、強い力で抱きすくめられる。

「おれの妻は、生涯かけておまえひとりだ。一生苦労はさせないぞ!」

あれほど拒んできたこの腕が、こんなにも恋しくなる日が来るなんて。 

かたく閉じていた蕾が、いまやわらかくほころびはじめる。

幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだ。

正直に言うと、わたしは自分の気持ちに気づいていた。

だけど彼は、あまりにも強引で横暴で。

でも、そんなところも愛しはじめていたんだ。

ナイルの賜物といわれる、このエジプトの天(そら)の下で。

わたしは生きると決めた。

いつかこの男性のとなりで、ミイラとなって眠りにつくまで。

ー完ー

 

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あとがき

 

この物語は、大人気少女漫画『天は赤い河のほとり』が大好きな一ファンのしがない妄想であり、原作者の篠原千絵先生ならびに宝塚歌劇団宙組とは関係がございません。  

カイル皇子至上主義のわたしですが、ラムセスとザナンザ皇子のハッピーエンドも見てみたかったので、おそれ多くもパラレルワールドを夢見てしまいました。

宝塚ファンのみなさまにはメインキャストの真風涼帆さん、芹香斗亜さん、星風まどかさん、桜木みなとさんを想像しながら読んでいただけると幸いです。

 

 

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