ミセスCAのオン&オフ日誌

現役主婦CAが人生という旅の中で感じた諸々を綴ります。 愛する故郷大阪・東京と世界を繋ぐ架け橋となるのが夢。

【天は赤い河のほとり】もし、ユーリがラムセスと結ばれていたら【妄想パラレルストーリー】

天は青い河のほとり

 

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ヒッタイトを追われて

 

「ユーリ!ユーリ!気がついたか?」

「ん…。」

 

ここはどこ?

背中が焼けつくように痛い。 

まだ焦点の合わない視線の先には、見覚えのあるひとりの男の顔。

右目が金色で、左目がセピア。

浅黒い肌、黄金の髪…

 

「ラムセス…。」

「よかった…心配したんだぞ。何日も眠っていたから。」

「…ここは…?」

「おれン家だ。砂漠で行き倒れていたところをつれて帰ってきた。」

 

そうだった。

カイル皇子に皇帝暗殺の容疑がかけられて、わたしはザナンザ皇子と先に逃げろといわれたのだった。

しかし道中で部下ゾラの裏切りにあい、皇子はわたしをかばって死んでしまった。

 

「皇子…ザナンザ皇子…。」

 

カイル皇子も、その後のゆくえさえ分からない。

横たわったまま涙を流すわたしの頰に、ラムセスが口づける。

いつもみたいに、はねのける力がない。

それどころか、また意識が遠のいていく。

 

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「兄さん、フィアンセが目を覚ましたわよ!」

 

フィ…フィアンセ?

 

「おお!ユーリ!起きたか。」

「ちょっとラムセス、あたしはあなたのフィアンセなんかじゃ」

 

抗議の声を唇でふさがれる。

 

「っ…なにすんのよ!」

 

ひっぱたいてやろうと思ったのに、するりとかわされてしまった。

 

「はっはっは!少しは元気が出てきたようだな。」

 

豪快に笑いながら、屋敷の主人は部屋の外へと消えていった。 

 

「ああ見えて、兄さんはとても繊細でね。あなたが意識を取り戻すまでのあいだ、ずっとつきっきりで看病していたんだから。」

「ウセルが女の人をつれて来たのなんてはじめてよ。」

「あなたって、ほんとうに愛されているのね。」

 

あの男にそっくりな女たちが、つぎつぎに喋りだす。

 

「あ、あなたたちは?」

「ラムセス家の姉妹よ。兄さんはうちの、たったひとりの跡取り息子なの。」

 

そうだ。

ラムセスはエジプトの将軍。

ヒッタイト帝国のカイル皇子とは敵対関係にあるのだ。

わたしはカイルのもとに帰るつもりでいたのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

 

「背中の傷も、しばらくは治らなさそうだし。」

「引きとめるのには、じゅうぶんな口実ね。」

「どうかゆっくりなさってね、お姉さま。」

「おねえ…!」

 

兄妹そろって、顔だけじゃなく性格まで似ているなんて。

なんだか先が思いやられる。

 

エジプト・ラムセスの屋敷

 

この家に来て数週間がたったころ、ラムセスが言った。

 

「ずいぶん顔色も良くなってきたことだし、今夜はおふくろといっしょに食事でもどうだ?」

「えっ?」

 

ラムセスのお母さん?

…てことは、このお屋敷の奥方さまよね。

縁もゆかりもないわたしが、いったいどんな顔をして会えばいいっていうの?

 

「い、いいよあたし!ホラ、その…着る服もないし。」

 

ラムセスが指を鳴らす。

扉が開いて、たくさんの侍女たちが入ってくる。

 

「こいつを着飾らせてやってくれ。エジプトの、どの女よりも美しくな!」

「ちょっと待ってよ、ラムセス!」

 

彼が出て行くが早いか、わたしは侍女たちに取り囲まれてしまった。

 

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「おお!ユーリ、見違えたぞ!」

 

ヒッタイトの衣装も窮屈だったけど、エジプトのドレスだって同じようなものだ。

だいいち、どうしてこんなにジャラジャラと宝飾品をつける必要があるのだろう。

 

「おまえはいつだって魅力的だが、今宵はいちだんと美しい。」

 

ラムセスの言葉が聞こえないふりをして、わたしは壁際に立っている女性に目を向けた。

 

「ああ、紹介しておこう。うちの女官長だ。」

「お目にかかれて光栄です。」

 

女官長と呼ばれるその女は、深々とお辞儀をした。

 

「あの…奥方さまは?」

「調理場においでです。おけがでもなさったらたいへんだと申しますのに、ご子息の未来の花嫁に手料理をとおっしゃって。」

「は、花嫁?」

 

ドアが開く。

 

「ユーリ姫!ごめんなさいね。パイがうまく焼けているか気になって、かまどを見ていたら遅くなってしまって。」

 

初老の、だがとても麗しい顔立ちの貴婦人が入ってきた。

どこかで見たことのある、なつかしい顔。

 

「おれもユーリも腹ペコだ。すぐに食事にしよう。」

 

豪華な客間ではなく、家族だけの居心地のいい空間。

日本にいたころは、いつもこんなふうに食卓を囲んでいたっけ。

お料理上手のママが作るごはんを食べながら、家族で笑いあって…

 

(パパ、ママ、お姉ちゃん、詠美…)

 

ついこのあいだまで、わたしはふつうの高校生だった。

それがある日とつぜん、古代オリエントに呼び寄せられた。

息子を皇位につけるため、カイル皇子を亡き者にしようと企むナキア皇后の生け贄として。

その後はずっと、なんども命を狙われて… 

日本へ…みんなのところへ帰りたい!

涙がこぼれ落ちた。

 

「姫…エジプトの食事は、お口に合わなかったかしら?」

 

心配そうにわたしの顔をのぞき込む女性。

そうだ。

このひと、ママに似てるんだ。

 

「いいえ…とてもおいしくて…感動したんです。」

 

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この舟はどこに

 

「来いよ。」

 

ラムセスに導かれ、黄昏の川面に浮かぶ舟に乗る。

夕陽に照らされた水面が、きらきらと波打っている。

 

「さっき泣いていたろ。」

「泣いてないよ。」

「あの男がそんなに恋しいか。」

「ちがうよ!」

 

自分の語気の強さにハッとする。

そんなにムキになって否定することもないのに。 

カイル皇子のことは好きだ。

だけど、ラムセスにそんなふうに言われたくはない。

 

「おまえは異国から来たんだったな。」

 

やわらかそうな金色の髪が、かすかに風に揺れている。

端正な横顔。

鍛えられたたくましい身体。

方法は違うけれど、カイル皇子と同じく、国を治めることになるであろう男性。

 

「…!」

 

ちょっと油断したすきに肩を抱かれた。

不意打ちをくらって固まってしまう。

 

「ユーリ、おれの妻になれ。」

 

とつぜんのプロポーズ。

 

「おれの子供を産んでくれ。男ならとびきりの武将に、女ならかなりの美人になるぞ。」

 

いきなり子供の話とか!

あまりに唐突すぎて、気が遠くなりそうだ。

 

「きゅ、急にそんなこと言われても…信じられないよ!」

 

肩に回された手を払いのけ、なにごともなかったかのように立ち上がる。

そんなわたしの動きを制するように、ラムセスは言った。

 

「おまえが失ったすべてのものの代わりに、このあとはおれがなろう。」

 

まっすぐな瞳がわたしを射抜く。

その視線が強すぎて、おもわず話をそらせた。

 

「…あの睡蓮の花、きれいだねぇ。」

「おまえの方がずっときれいだ。」

 

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歯の浮くようなセリフなのに、この人が言うとドキドキするのはどうしてだろう。

そんな気持ちを悟られないよう、わたしは怒ったふりをする。

 

「どうせ舌の根も乾かぬうちに、他の女性にも同じことを言うんでしょう?」

「もしかして、おまえ妬いてんのか?」

 

なぜだかうつむいてしまったわたしの鼻を、指でギュッとつまんで笑う。

 

「んもう!」

 

ちょっとでもときめいたわたしがバカだった。

 

刹那、広い胸のなかに抱き寄せられる。

 

「悪かったよ。からかって。」

 

もう押し返す力だって戻っているはずなのに、身体が動かない。

 

「国をつくるには、王と同じ器量の女が必要だ。おまえにはその素養がある。」

「あなたは、あたしが役に立つから欲しいの?」

「最初はそのつもりだったがな。だがいまは…。」

 

そのあと、ラムセスはなにも言わなかった。

なにも言わないかわりに、ずっとわたしを抱きしめていた。

 

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予期せぬ訪問者

 

ここに来て数ヶ月がたつというのに、依然としてカイル皇子の消息はつかめないままだった。

このままじゃ、ヒッタイトにも日本にも帰れない。

これから、どうすればいいのだろう。 

そんなある日、ラムセスがわたしを呼びにきて言った。

 

「ユーリ、おまえに客人だ。」

 

この国には、わたしに知り合いなんていない。

いったいだれが会いに来たのだろうか。

  

「ユーリ!おお、やっぱりユーリだ!」

「…ザナンザ皇子!」

 

驚きで息が止まりそうになる。

 

「黒髪で、象牙色の肌をした娘が、この屋敷にいると聞いてね。」

「ザナンザ皇子!生きていたんだね!」

 

カイル皇子の腹違いの弟君であるザナンザ皇子。

わたしを守って、臣下の刃に倒れた。

死んだと思っていた皇子が、生きて今ここにいる! 

かたく抱き合った肩越しに、見知らぬ女性の姿が目に入った。

 

「あそこにいるのは?」

「紹介するよ。わたしのたいせつな人だ。」

 

はにかむように会釈をする若い女性。

身なりは粗末だが、大きな瞳が印象的な美人だ。

 

「彼女の名はラウア。ベドウィンの娘だ。瀕死の状態だったわたしを助けてくれた。」

 

ザナンザ皇子は、女性の肩を優しく抱いた。

 

「つい最近まで、わたしは意識不明だった。だが彼女の手厚い看病のおかげで、もういちど生きることができたんだ。」

 

ふたりが強く愛しあっているのが、彼らの目の輝きに見てとれた。

 

「わたしはラウアを国につれて帰り、妻とするつもりだ。」

「おめでとう、ザナンザ皇子。」

「ユーリもはやく支度をして、兄上のもとへ帰ろう。」

「えっ?」

「赤い獅子と呼ばれる新しい勢力を率いた兄上が、自軍と合流を果たした。」

「カイル皇子が!」

「まもなくオロンテス河畔で戦いがはじまるぞ。」

「ヒッタイトとエジプトが戦争!」

 

カイル皇子とラムセスが敵同士に!

最悪の事態に陥ってしまった。

 

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わたしの生きる場所

 

旅立ちの日がやってきた。

庭園の椰子の木々が、風に吹かれて揺れている。

 

「気をつけてな。」

「…うん。」

「おまえを、あの男にくれてやるんじゃない。ハットゥサの泉が…おまえが元の世界に戻れる唯一の場所だから、おれは行かせるんだ。」

「ラムセス…。」

「元気でな。どこの世界にいようが、おれはおまえを愛してるぜ。」

 

ありがとう。

お世話になったね。

あなたのこと忘れないよ。

別れの言葉をいくつも考えていたのに、なにひとつ出てこない。

 

「舟が待ってる。さあ、はやく行け。」

 

ラムセスに背を向け、振り返らずに歩き出す。

振り向けばまだ、そこに彼がいる。

自信満々な態度。

キザなセリフ。

ときおり見せる少年のような笑顔。

わたしを呼ぶ、低くて温かい声。

後ろを向いていても、彼のすべてがはっきりと思い描ける。

 

舟に乗り込もうと片足を下ろした瞬間、なにかが弾けた。

気がつくと、反対方向に走り出していた。

 

「あたし、帰らないよ。」

 

自分でも予期せぬ言葉が口をついて出てくる。

 

「あたしは帰らない。あなたのそばにいる。」

 

ラムセスが呆然とわたしを見ている。

 

「あたしは導かれてこの世界に来た。あたしはその運命を…あなたといっしょに生きる!」

「おまえ…」

「あたしは帰らない。この世界で、ナイルのほとりで生きていく。」

「ユーリ…」

「あたしの天は母なる流れ、あの青い河のほとりにある!」

 

かけよって、ラムセスの胸に飛び込む。

 

「ユーリ!ユーリ!愛している!」

 

倍以上の力で抱きすくめられる。

 

「おれの妻は、生涯かけておまえひとりだ。一生苦労はさせないぞ!」

 

あれほど拒んできたこの腕が、こんなにも恋しくなる日が来るなんて。

かたく閉じていた蕾が、いまやわらかくほころび始める。

幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだ。

 

本当言うと、わたしは自分の気持ちに気づいていた。

だけど彼は、あまりにも強引で横暴で。

でも、そんなところも愛しはじめていたんだ。

 

ナイルの賜物といわれるこの広い天の下で、わたしは生きると決めた。

いつかこの男性のとなりで、ミイラとなって眠りにつくまで。

 

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 (完)

 

あとがき

 

この物語は、【天は赤い河のほとり】を愛する一ファンによる妄想であり、原作者の篠原千絵先生、並びに宝塚歌劇団とは関係がございません。

 

カイル皇子至上主義のわたしですが、ラムセスとザナンザ皇子のしあわせな姿も見てみたかったので、おそれ多くもパラレルワールドを作ってしまいました。

 

宝塚ファンのかたには、芹香斗亜さん、星風まどかさん、桜木みなとさんを想像しながら読んでいただけると幸いです。 

 

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両方あわせてご覧になると、より深く【天河】の世界に浸れることうけあいです。 

 

 

 

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