ミセスCAのオン&オフ日誌

ヨーロッパ系航空会社CAのブログ。フライト・宝塚歌劇・愛犬・ワイン・ジュエリーなどについて書いています。

エルハポン-イスパニアのサムライ-その後【妄想パラレルストーリー】

藤九郎が語る【エルハポンその後】もし、こんな未来があったなら

 

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第一場 カタリナの宿屋

 

「西さん!方々!」

「治道!久しぶりだな」

「達者でなによりです」

 

政宗公の命を受け、西さんがふたたび、イスパニアの地へとやってきた。

今回の渡航は、日本の文化を広めるのが目的だという。

 

「本当に驚いたよ。国へ帰って一年もしないうちに、また出国命令が下るなんて。いつの間にやら、空前のハポンブームがおきているのだからな」

「わたしも、こんな日が来ようとは、思うてもみませんでした」

「兄っちゃがエリアスさこらしめたことが、国じゅうの剣術学校に知れ渡ったっちゃ」

「あれからひっきりなしに、夢想願流の手ほどきを受けたいっちゅう剣士さまが殺到しとるんえ」

「それで藤九郎も、剣術学校の師範に」

「はい。おかげでこうして、生きながらえております」

「しかし、おまえはどうやって不法滞在を免れたのだ?」

「そりゃまあ、アレハンドロさんの手にかかっちゃ。ねえ」

「この国には黙殺された人間が、ほかにもたくさんいたってわけか」

 

西さんの言葉に、大げさに驚いたような口ぶりで、同行者たちが話しはじめる。

 

「ああ恐ろしい。とんでもないところに来てしまいましたよ」

「さきが思いやられますねえ」

「方々、そう恐れなさるな」

「紹介が遅れてすまない。この方らは殿からの遣いで、伝統工芸や絵画、建築をはじめ、茶の湯、能楽、香などに秀でておられる。剣術をきっかけに、日本について知りたいというイスパニア人が増えているそうだ。それを受け国王さまは、日本文化を学ぶ教育の場を作りたいとのご意向だ」

「祖国のために。そしてイスパニアのために。わが国のすばらしさを伝えに参りました」

「こんごとも、どうぞお見知りおきのほど」

 

時代の最先端を行く、洗練された文化人たちの登場に、娘っ子たちは大さわぎだ。

 

(きゃ〜すてきだっちゃ〜)

(きくは、どの殿方がよか?)

(いちばん左側のお方でごわす♡)

 (ごわす)

(とめは?) 

(右から二番目がよかとよ♡)

(とよ)

 

「ところで、アレハンドロはいずこに?」

「あの男は身を固め、貴族の娘と子をなしました。以前はここに入り浸っていたのですがね…いまじゃすっかり子煩悩の父親に」

「いま流行りの、イクメンってやつですよ」

「イクメン」

「まもなく、二人目が生まれる予定だそうです」

「だども、今夜は来られるって」

「あっ!アレハンドロさだ」

「うわさをすればアレハンドロ、だな」

「アレハンドロさ〜ん」(手を振る)

 

豪華なマントをひるがえし、手を振り返すアレハンドロ。

育児疲れもなんのその、あいかわらずの伊達男っぷりだ。

 

「これはこれは。みなさんおそろいで」

「やあアレハンドロ。ご無沙汰でござる。嫁さんの具合はどうだ?」

「ああ、おかげさまで元気だ。もう子どもの名前だって考えてある」

「ずいぶん気が早いですねえ」

「ヘブライ語で『神と剣』という意味の、『オスカル』と名づけようと思ってな」

「まだ男の子だと決まったわけじゃなし」

「ああ、男とは限らん。だがもし、また女の子が生まれたとしても、つぎは男として育てようってね」

「その話、どこかで聞いたような…」

「ゆくゆくは王家をお守りする、近衛隊の隊長にするつもりだ。これからの時代は男女平等だ。女の軍人がいたっていいだろう」

「女の軍人ねえ…」

「どちらが生まれても、その子の紋章は白薔薇にすると決めている。産着から寝具にいたるまで、絶賛準備中だ」

(オスカル?白薔薇?白ばらの…ひと?なんだか、他人事とは思えないぞ←新人公演初主演✨)

 

そうこうしているうちに、身重のカタリナが病院から帰ってきた。

治道から喪服を脱ぐよう言われて以来、すっかり明るい色の服を着るようになった。

今日のすみれ色のドレスも、とてもよく似合っている。

 

「みなさんようこそ!」

「女将さま!お帰りなさいまし」

「カタリナ!医者はなんと?」

「大丈夫よ、順調ですって」

「良かった…」

「カタリナ殿、どうされた?どこか具合でもお悪いのか」

「うんにゃ。おめでたなんどす。ね〜、兄っちゃ」

「お…おめでた?治道、おまえも父親になるのか」

「はい…(照れながら)ますます精進せねばと思うておる次第です」

「かたくるしいことを言うな!生まれてくる子どもの将来を祝って、乾杯しなくてはな!」

「王宮の晩餐会では、緊張してろくに食べられなかったでしょう?今夜はみなさん、ここでゆっくりして行って。生命の水も、たくさん用意してあるわ」

「生命の水!」

「今夜はアクアヴィーテだな!」

「おいおい、飲みすぎるなよ。脳内までアルコールになっちまうぞ」

「おまえこそ!」

 

はしゃぐ若衆たちを尻目に、西さんと治道が再会の喜びをかみしめる。

 

 「わたしたちがここに戻ってこられたのも、すべておまえのおかげだ。礼を言うぞ」

「よしてください。わたしに剣を教えてくれたのは、ほかならぬ西さんなのですから」

 

そこにロベルタが入ってきて、大声でこう告げる。

 

「まもなくこちらに、踊り子の方々が参られます」

「踊り子?」

「わたしが呼んだの。日本の若い人たちを歓迎するにはイチバンだと思ってね。わたしとハルミチも、一緒に踊った日からお互いを意識しはじめたのよ。ね、ハルミチ♡」

「カタリナ…♡」

 

人目もはばからず、抱き合う二人。

 

「あ〜あ。治道どのも、ずいぶん変わられたものだ。まえは、『武士が人前でそんなことできるか。話にならん』なーんて言っておられたのに」

「うるさい、藤九郎。そんなに羨ましいなら、おまえも早く妻をめとればいい」

「はいはい、よけいなお世話ですよ〜だ」

「おまえたち、いつからそんなに仲良くなったのだ?」

「べつに仲良くはありませんが。うまくやっていることだけは確かです」

「そういえば、あの男…エリアスってやつはどうしたんだ?」

「あいつは貴族の称号を得て以来、国のために尽くしております。ドン・フェルディナンドの奴隷をすべて解放し、働き方改革とやらを推進しております」

「働き方…改革?」

「するとおもしろいことに、いったんアフリカに帰った人びとが、エリアスのもとで働きたいと、こんどは志願してくるように」

「剣術だけでなく、経営者としての才能も持っていたってわけか。世の中わからんもんだな。して、父親の処分はいかに?」

「ドン・フェルディナンドは、レルマ公爵の恩赦により国外追放されるにとどまりました。いまは、イタリアのヴェローナというところで、神父を務めているそうです」

「あの悪党が神父だと?」

「はい。なんでも、改心してロレンスと名乗っているとか」

「ロレンス神父か…どこかで聞いたことがあるような」

「なんでも、薬草の知識にたけているそうですよ。仮死になる劇薬を持っていると、もっぱらの噂です」

「おいおい、また良からんことをしでかすんじゃないのか? 」

「いいえ。エリアスに聞いたところによると、愛のために使うそうです」

「ふむ、愛のため…か。変われば変わるもんだな」

 

こんどはミゲルが、ドアを開けて叫ぶ。

 

「踊り子の御一行が到着されたよ」

「オオーッ!」

 

セクシーな黒いドレスに身を包んだ女たちがあらわれる。

髪にさした、アンダルシアの燃えるように赤い花。

幾重にも重なったレースが奏でる、サラサラという衣ずれの音。

むせ返るような、甘い香水の香り。

 

おれは、そそくさと出口のほうへ向かっていた。

 

「ねえ、あなた。どこへ行くの?」

「あ、いや、ちょっと外へ」

「いま来たばっかりなんだから。ちっとはあたしたちの踊りを見ていきなさいよ」

 

なんだ、この女。いきなり指図なんかしやがって。

 

「…わかったよ」

 

そう言ったのは、彼女が好みのタイプだったからじゃない。

ああ、断じてそうじゃない。

ただ、彼女の言うとおりだったからだ。

せっかく余興をしにきたのに、目の前で観客が帰ってしまったら、残念な気持ちにもなるだろう。

そうだ。礼儀だ。

武士たるもの、外国(とっくに)にいたとて、礼節を尽くさねばならん。

 

おれは仕方なく、その場にのこった。

曲がかかり、踊りがはじまる。

 

おれは驚いた。

さっきおれに食ってかかったあの娘。

なんて綺麗に、妖艶に踊るんだ…

 

おれは息をのんだ。

ほかの娘たちの姿が、まったく目に入ってこない。

なんなんだ、この気持ちは。

おれはわれを忘れて、ひたすら彼女を目で追いかけていた。

 

曲がやんだ。

ぼうぜんと突っ立っているおれのほうに向かって、彼女が歩いてくる。

そして、やぶからぼうにこう言った。

 

「どうだった?」

「どうだったって、あの…その、とっても…良かったよ」

 

こんなときに、あまりにありきたりな台詞しか言えない自分が恨めしかった。

だが、ほかに言葉が見つからなかったのも事実だ。

 

「ありがとう」

 

さっきとはうってかわって、花が咲いたような笑顔を見せる。

笑うと、こんなに可愛いかったんだ。

おれは舞いあがり、そして戸惑った。

 

「あの」

「あの」

「あ、いや、そっちから」

「あ、うん…こんど、店にも遊びに来てよね」

「ああ、わかった。きみの名は?」

「パメラ。カタリナの古くからの友達よ」

 

パメラ…パメラ…美しい名だ。

どうして、こんなに心がざわつくのだろう。

女になど興味のなかったおれが、彼女の店に足を運んだのは、それから二日後のことだった。

 

第二場 コリア・デル・リオの街【タブラオ】

 

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夜の街にたたずむタブラオ。

ゆらめく灯の中、男と女が踊っている。

酒とタバコのにおいが漏れてくる。

おれは、おずおずと店へ入っていく。

 

「トウクロウ!来てくれたのね!」

「や、やあ」

「さっそく来てくれるなんて嬉しいわ」

「あ、いや。今日は、たまたま早く上がれたから」

 

おれはうそをついた。

本当は、ずっと彼女のことを考えていた。

早くもう一度会いたいと思っていた。

一人で酒を飲みながら、彼女が踊るのをうっとりと眺める。

 

店がはねたあと、パメラがとつぜん尋ねてきた。

 

「あなた、踊りは?」

「まさか」

「そうよね。なら、教えてあげるわ」

「待ってくれ、無理だ」

「剣術と一緒。要は足さばきなの」

 

治道も、ここでカタリナと踊ったと聞いた。

あいつは、うまく踊れたのだろうか。

これが剣術と同じとは、とうてい思えないのだが。

おぼつかない足どりで踊っていると、常連らしき男が現れた。

 

「オイオイ、パメラ。なんだってそんな、しけたサムライなんかと踊ってんだ?」

「やめて」

「早くおれのものになれって、いつも言ってんだろ」

「いや、離して」

「おい、離してやれ」

「なんだと?」

「離してやれって言ってるんだ」

「こいつ!生意気な!」

 

男は剣を抜いた。

だが、おれは怯まなかった。

武器を持たなくても身を守れる方法を、治道から伝授されていたからだ。

 

「はあっ!」(飛び掛かる)

 

おれは相手の懐に飛び込んで、奴の剣を捕らえた。

 

「きさま、何者だ」

「和賀…藤九郎」

「こい…つ…ただものじゃねえ」

「夢想願流は、護衛のためにつくられた剣術だ。窮地においてこそ、その真価を発揮する」

「お、覚えておけ!」

 

男は、恐れをなして逃げて行った。

相手が悪かったようだな。

おれは、泣く子も黙る、蒲田治道の一番弟子なんだからな。

 

「大丈夫か、パメラ」

「トウクロウ…」

 

震えがおさまらない彼女を、思わずぎゅっと抱き寄せた。

一瞬、怯えたような目をしたが、そのままおれの腕に身をあずけて、ゆっくりと語りはじめた。

 

「こんな仕事をしているからか、すぐなびく女だって思われてね。踊りは好きだけど、お客とのしがらみがイヤで。でも仕方ないわね。生きるためだもの」

「きみの家族は?」

「いないわ」

「え?」

「みなしごだったのよ。あたし。孤児院の前に捨てられてたんだって」

「パメラ…」

「ずっとひとりぼっちだったあたしを、この店のおかみさんが拾ってくれたの。今はいろいろと任されてる。だから、簡単にはやめられないんだよね」

「そうか。でも、おれだって同じようなもんさ」

「あなたは、立派なサムライのうちに生まれたんでしょう?」

「ああ、そうだった」

「そうだった…って?」

「おれは和賀家の生き残りだ。家族はみんな、戦で滅んじまった。父も母も、大切な姉上も…」

 

おれは言葉につまった。

まだ出会ってまもない女に、過去を打ち明けていいものかどうか迷った。

だが彼女の澄んだ瞳を見ていると、すべてを話したくなった。

 

おれは、自分がイスパニアに行きついた経緯を話した。

人に裏切られた恨みの矛先を、治道に向けていたこと。

長いあいだ、治道について誤解していたこと。

いまでも、しんから人を信じられないこと。

己のことすら、信頼できないでいること。

自らの抱えた孤独な部分を、彼女の前でなら、不思議とさらけ出すことができた。

 

「あたしたち、似たもの同士ね」

「おれときみが似てる?」

「そう。自分に自信がなくて。自分のことなんて、だれも本気で愛してくれないって思ってる」

「パメラ、おれはきみのことが好きだよ」

 

言ってしまったあとで、激しい羞恥心に襲われた。

穴があったら入りたいと思った。

勢いとはいえ、おれはいったい、なにを言ってるんだ?

 

「あたしも、あなたのことが好きよ」

 

これまた、想定外の答えが返ってきた。

おれがうろたえている刹那、頬に柔らかいものが触れた。

 

「パ、パメラ?」

「…今夜はありがとう。気をつけて帰ってね」

 

彼女はそう言ってドレスの裾を持ちあげると、そのまま夜の闇のなかへと走り去っていった。

本当は追いかけていきたかったけれど、送り狼だとは思われたくない。

おれは仕方なく、宿屋の方向へと踵を返した。

 

第三場 コリア・デル・リオの街【教会】

 

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それから毎晩のように、おれはパメラの店へと通いつめた。

彼女のほうも、おれが来るのを待っていた。

会えば会うほど、彼女への想いは募るいっぽうだった。

 

ある日の夕刻。

教会が見える運河沿いを、二人で歩いていた。

少しひんやりとした風が心地いい。

いつもよりパメラの様子が、いくぶん浮かれて見える。

 

「こんど、カタリナのベビーシャワーがあるのよ」

「ベビーシャワー?」

「ええ。この国では、出産予定の妊婦さんを囲んで、盛大にパーティーをするの。元気で丈夫な赤ちゃんが生まれますようにって。プレゼントは何がいいかしらね〜。可愛いスタイがいいかな。それとも、靴下?」

「パメラ」

「なあに?」

「きみも、赤ん坊がほしいかい?」

「とつぜん、なにを言いだすの?」(笑いながら)

「その…おれと…おれと、家族をつくらないか?」

「トウクロウ!」

 

パメラが驚いておれのほうを見ている。

潤んだ瞳が、いまにもこぼれ落ちそうだ。

 

東洋人と西洋人。

遠い国で生まれ育った男と女が結ばれるなんて。

おれだって、考えるよしもなかった。

だが人として、一人の男として、彼女を愛さずにはいられなかった。

そして、その愛のかたちは、おれにとってただ一つ。

伴侶となって、生涯彼女を守り抜くことだった。

 

「先のことはわからない。だけど、一人より二人。二人より三人でいるほうが、幸せになれる気がするんだ」

「あたしたち、まだ出会ってまもないのに」

「関係ないさ。国では顔も知らないもの同士が、家の都合で結婚させられている。でも、おれたちは違う。お互いに…愛しあっている」

「トウクロウ…」

「これからは、おれのためだけに踊ってくれ。いいね?」

 「ええ!」

 

まだ出会って間もない 何も知らぬ人

けれど過ごす日々に覚えた

心の触れた温もり

信じよう 海隔て 出会うはずのない二人

手を取り二人の旅を 始めよう

(宙組公演 エルハポン-イスパニアのサムライ-フィナーレより引用)

 

あとがき

 

宝塚歌劇「エルハポン-イスパニアのサムライ-」が好きすぎて、恐れ多くもその後のストーリーを妄想してしまいました。

この物語はフィクションであり、大野先生ならびに宝塚歌劇団とは関係がございません。

 

コロナウイルスの影響により、不安定な日々が続きますが、愛する宝塚の舞台の一日も早い再開をお祈りしております。

 

追記

 

中止、自粛、延期がつづく毎日。

舞台への飢餓感から、オマージュの続編を妄想してしまいました。

こんどは、西さんを主役にさせていただきました。

 

【イスパニアのサムライ】は、劇場で3回、ブルーレイでは繰り返し拝見しています。

いつか本物の続編が上演されることを、心より希望いたしております。

 

www.ciel114.com

 

   

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