となりの芝はライトブルー
高校時代、なぎなた部に所属していた。
おもな稽古場は柔道場だったが、柔道部が使用するときは、校門前で練習しなければならなかった。
校門…それは、生徒が下校する際、かならず通る場所だ。
ボーグをつけてナタを振り回しているところなど、ホントなら誰にも見られたくなかった。
ある日のこと。
柔道部員となぎなた部員が、柔道場の使用権をめぐって争っていた。
話し合いでは、いつまでたっても埒があかない。
「ほな、戦って決めるしかないな!」
…とはいえ、こちらはナタ、あちらは素手。
武道は武道でも、剣道部との試合のようにはいかないので、勝敗はジャンケンで決めることになった。
だだっ広い道場の片隅で。
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に並び、向かい合って座る。
それぞれが対戦相手と恭しく礼を交わし、一人ずつ勝負するのだ。
神聖なる道場の畳の上。
はりつめた静寂のなか、響きわたるかけ声は
「じゃんけんホイ!」
技も、作戦も、なにもない。
三種類の手の形から、どれかを選んで勢いよく出すだけだ。
結局、どちらが勝ったかは覚えていないが、この異種団体戦?の記憶は鮮烈にのこっている。
時は流れ流れて、二十数年後。
母校の、学年全体の同窓会が行われた。
二次会で偶然、元柔道部員と元剣道部員と同じテーブルになった。
「いやあ、あのときは、おたがい必死でしたね〜」
思い出話に花が咲き、笑い合う柔道部員とわたしに、剣道部員が言った。
「それにしても、どうしてわざわざ五人もじゃんけんしたんですか?代表者同士が一回やれば、それで済んだのではありませんか?」
柔道場のとなりにあった剣道場で、いつも悠々とお稽古していた剣道部員に、わたしたちの気持ちなんて分かりっこないわ。
わたしは少し卑屈にこう言った。
「剣道部は良かったですよね。剣道場を自由に使えましたもん」
すると、衝撃的な答えが返ってきた。
「いいえ。僕たちも、卓球部と熾烈な争いを繰り返していました」
そ、そうだったのか!
(…知らなかった…)
剣道部のことを、ずっと羨ましく思っていた。
柔道部となぎなた部は、年がら年中バトっているのに、剣道部だけいいな〜と。
となりの芝は青くなかったと、四半世紀後に知った。
人は誰しも、他人のことはよく見えるものである。
これは日本人特有の心理ではなく、どこの世界にでも存在しているようだ。
ちなみに英語では、このように表現される。
The grass is always greener on the other side.
となりの芝は、なんだかとても青々として見える。
しかしそれは目の錯覚で、本当は青ではなくライトブルー。
それも、限りなく透明に近いブルーなのかもしれない。
見た目だけでなく、本質を想像する力。
それこそが隣人を思いやり、ひいては自分自身をも成長させる原動力となることを、歳を重ねるたび強く感じる。
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