長い橋の途中で【フライト復帰はまだ遠い】
月に一度の、愛犬シエルのシャンプーの日。
行きつけのトリミングサロンは、うちから一駅離れたショッピングモールの中にある。
いつもは電車で連れて行くところを、気候もいいし、歩いて行くことにした。
たった一駅とはいえ。
二つの駅の間には、長い長い橋がある。
橋の左手下方には、大きな川が流れているけど。
右手は、車が激しく行き来しているだけの道。
道すがら、楽しくにおいをかぐものもなく。
シエルもまっすぐ、ただひたすらに歩く。
家を出るときは少し肌寒かったのが、ようよう汗ばんでくる。
こんなに歩いたのは久しぶり。
思えばわたしは、人一倍歩く仕事をしていた。
飛行機の端から端まで、通路をぬって行ったり来たり。
乗務復帰のため、少しは鍛え直さねばと思う。
だがその日は、まだまだ先のことみたいだ。
未来は桜吹雪の中
コロナが落ち着かないことに加えて、ロシアとウクライナの間で戦争も始まった。
「フライトレーダー24」という航空機の運行状況がリアルタイムで見られるアプリがある。
先日調べてみたところ、シベリア上空に旅客機のマークはひとつもなかった。
南回りでヨーロッパへ入る便もあるが、いまのところわが社にその予定はない。
ふいに桜吹雪が舞い散る。
薄曇りの空に、白く幻想的な景色が広がる。
ちいさな花びらが風に舞って、舞い上げられて。
そして、どこかへ運ばれていく。
人間も、大きな力の前では、か弱い花びらに過ぎない。
道路を挟んだ向かい側にある公園。
桜の木の下を、少女たちがスキップしている。
ジャンパースカートをはいた娘。
ポニーテールを揺らしている娘。
みんな一様にマスクを着用しているが、息づかいまで聞こえてくるようだ。
春がめぐりくるたびに、歳をとったなと思う。
あんな無邪気な時代もあったと、遠くなつかしい日々を振り返る。
長い長い橋を渡りながら、いろんなことを考えた。
わたしの人生という橋の先には、なにが待ち受けているだろうか。
強い風に吹かれながら、かたわらの愛犬に目をやる。
小さな身体でありながら、風に逆らい健気にチョコチョコと歩いている。
そうだね。
歩くしかないよね。
いつかたどりつく、その場所が。
安寧に満ちた、幸せな未来であることを祈った。
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