空が仕事場 【キャビンアテンダントと飛行機】
飛行機が飛んでいく。
あかね色に染まった夕暮れの空を。
ゴーという大きな音をたてながら。
飛行機が飛んでいく。
あの音を聞くと、乗務していたころを思い出す。
コロナ禍以前は、空が仕事場だった。
そう、わたしはキャビンアテンダント。
機体が発する、独特の機械音。
コックピットから聞こえる管制塔とのやりとり。
クルーの陽気な笑い声。
乗客たちのざわめき。
シャンパングラスがたてる、カランカランという音。
聞きなれた、優しく愛しい音たち。
耳が、ぜんぶ覚えている。
オリンピック開催期間中のフライト
夏と冬。
年に2回、オリンピックが巡りくるたび、機内で盛り上がった。
名高いアスリートのお客さまが、ご搭乗されることもあった。
まだ、インターネットが普及していなかった時代。
競技の結果が知りたくてウズウズしている乗客(と乗員)のため、無線を使って地上とコンタクトをとり、機内アナウンスをするキャプテンもいた。
それを受け、わたしは即座に最寄りのマイクをとり、日本語でアナウンスをする。
よその国のメダル情報なんて、日本人のお客さまに需要があったとは思えないけど。
それでも、機内通訳はわたしの仕事。
忠実に訳して、伝達していた。
もしいま、オリンピックが開催されたなら。
スマホやパソコンなど、個人の端末で、なんだって検索できるだろう。
あのときのアナウンスだって、もう必要はない。
わたしがキャビンアテンダントとして勤務してきた25年。
その四半世紀のあいだ、世界はすっかり変わってしまった。
でも大空を飛ぶ飛行機の、あの轟音だけは変わらない。
そして空を想う、わたしの気持ちも。
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