聖なる季節に出会った、空の上の天使たち【ANAのキャビンアテンダント】
大阪に帰省するときはいつも、全日空さんのお世話になっている。
先月も、数日分の荷物が入った小型のスーツケースを、機内持ち込みにして搭乗した。
いつもなら何てことのない荷物の上げ下ろしだが、この日は勝手が違った。
ピラティスで肋骨を骨折していたわたしは、恐る恐るスーツケースの持ち手に手をかけた。
その瞬間、すかさずCAさんがやってきて。
「お手伝いいたしましょうか?」
『…助かった…!』
まだ痛みの残るわき腹を抱えながら、わたしは天使の声を聞いた。
「助かりました。じつは肋骨が折れていて…」
このようなシチュエーションで、私情を挟む必要もないのに。
感謝の気持ちから、つい口をついて出てしまった。
驚いたCAさんは『それは大変』といった表情で、「お帰りのさいにも、お手伝いさせていただきますね」と言ってくださった。
さらには「できることがあれば、いつでもおっしゃってください」とお声がけをいただき、安心してゆったりくつろぐことができた。
その日はとてもお天気がよく、うっすら雪化粧をした雄大な山々が、眼下に広がっていた。
自分の仕事中は、いつもバタバタしていて、窓からの景色を楽しむ余裕がないわたし。
ここぞとばかりに、窓の外を覗きこむ。
『富士山は、どのあたりなんだろうか?』
ほどなく、ドリンクサービスがはじまった。
さっきとは別のCAさんが、こちらのサイドの担当だった。
飲みものをいただきながら、わたしは思いきって尋ねてみた。
「今日は、富士山が見られるでしょうか?」
「残念ながら、もう通りすぎてしまいました」
(その会話を聞いていたお隣の紳士)「富士山なら、さっき見えましたよ」
『なんや水くさいな〜お隣なんやから教えて〜な』
…とは言えなかったが、ひとしきり富士山の話題で盛り上がった。
しばらくすると、また同じCAさんがやってきて。
「よろしかったら、こちらをどうぞ」と一枚の絵葉書をくださった。
目の前に差し出されたそれは、みごとな富士山の写真だった。
「これくらい綺麗に見える日もあるんですよ!」
はずんだ声でそう教えてくれた彼女もまた、空に魅了されたひとりなのだと思うと、胸が熱くなった。
もしかしたら。
うしろのギャレーで、最初のCAさんと話をしたのかもしれない。
浮かない顔で搭乗してきたわたし。
マスク越しでも、不安げな様子が伝わったのだろう。
肋骨を骨折して、レゴブロックみたいな動きをしているし。
まるで『あのお客さんを元気づけよう』と示し合わせたかのように、ふたりの真心が伝わってくるサービスだった。
飛行機は徐々に高度を下げ、着陸態勢に入った。
CAさんは手伝ってくれると言ったけど、わたしの座席はクルーのステーションから近くはない。
これは最後に降りることになるなと、待つ覚悟を決めていた。
それが!
シートベルトサインが消えるやいなや、最初のCAさんが飛んできてくれて、物入れから荷物を降ろしてくださった。
疾風のような速さだった。
一刻も早く、わたしを降ろそうと気遣ってくれた優しさに、涙が出そうだった。
まだ年若い、フレッシュで愛らしい方。
こんな人の便に乗れたわたしは、本当にラッキーだった。
折しも、クリスマスシーズン。
制服の胸元についている、リースの飾りが目に入った。
「メリークリスマス」
わたしは、お礼のことばに、こう付け加えた。
「メリークリスマス」
はにかんだような表情で、そう返してくれた彼女のもとに、幸せが訪れますように。
飛行機を出るとき、シニアとおぼしきクルーの方に「うしろのサービスが素晴らしかったです。お世話になりました」と伝えると、「ありがとうございます。励みになります。かならず伝えておきます」と誇らしげにおっしゃった。
心と心がつながるフライトとは、こういうことを言うのだろう。
伊丹空港についたら、ずっと塞いでいた心が、いつのまにかほぐれているのを感じた。
知らない人同士でも、人はだれかの役に立てる。
人の痛みや悲しみに寄り添うことの尊さを、空の天使たちから教わった。
12月某日 東京発大阪行き ANA21便のクルーに感謝をこめて
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