東宝【エリザベート】ルキーニ 役の高嶋政宏氏は、人格者の暗殺者だった
ミュージカル「エリザベート」といえば。
忘れられないエピソードがある。
もう十年ほど前の話になるだろうか。
機内で、高嶋政宏さんにお会いしたのだ。
わが社の飛行機にルキーニ氏がご搭乗
そのフライトでは、珍しくクルーが「クールな日本人が乗っている!」と騒いでいた。
ヨーロッパ系女子が日本人男性を「カッコイイ」と言うことはあまりない。
『いったい、どんなお客様なんだろう?』と思っていたら。
なんと、俳優の高嶋政宏氏ではないか。
そりゃ〜、かっこいいに決まっている!
欧州での旅番組収録の帰りにご利用くださったのだが、サービスの合間に少しだけお話させていただくことができた。
わたしが宝塚ファンであることを告げると、お母さま(寿美花代氏)の影響で、ご自身も宝塚がお好きだとおっしゃった。
当時、東宝で、エリザベート皇后殺害の罪で投獄されたイタリア人テロリスト・ルキーニの役を演じられていた高嶋さん。
そのころはまだタカラヅカ一辺倒で、東宝のお芝居を見たことがなかったわたし。
高嶋さんが気さくにお話してくださるのをいいことに、ルキーニの幕開きのセリフを、ご本人の前で披露❓してしまった。
さっさと地獄へでも天国へでもやってくれ!
まさかシベリア上空で、見ず知らずのCAの口から、ご自分の決まり文句を聞くとは夢にも思わなかったのだろう。
ドヤ顔でモノマネをするわたしに、高嶋さんはプーッと吹き出した。
「おもしろい方ですね〜!」
端正な表情がほころんで、いかにも楽しそうに笑ってくださる。
あとにもさきにも、本役さんを前にルキーニの真似をしたCAは、わたしだけだと思う。
しかし!
後日、気づいたことがひとつある。
それは、宝塚バージョンと東宝バージョンでは、セリフが微妙に…
いや、大きく違っていたことだ。
東宝版エリザベートでは、
さっさと地獄へでも天国へでもやってくれ!
ケ◯でも掘ってやろうか裁判官どの!
と続くのだ😱
清く正しく美しい、女の花園・宝塚歌劇団。
「ケ◯」とか「掘る」とかいう表現はご法度であり「すみれコード」に引っかかってしまう。
だから、ヅカファンのわたしは知らなかったのだ!!
その一節に「ケ◯」が後続することを。
知らぬが仏とは、まさにこのこと…💧
(もし知ってても、言えなかっただろうけど😅)
「ところで、つぎのエリザベートはどなたに決まりましたか?」
しばらく日本を離れていたので、ちょうど選考中だった次期エリザベート役をご存知なかった高嶋氏。
高嶋氏「湖月わたるさんですか?」
わたし「いいえ、朝海ひかるさんです」
あとから考えると、この会話もあべこべでおもしろい。
関係者中の関係者(メインキャスト)が、わたしごとき一般市民からご自分の舞台に関する情報を得ているという、世にも不思議な状況😆
わたしのコアなエリザベートオタクっぷりに感銘を受けられたのか❓
高嶋さんは力強い調子でこう言った。
「宝塚だけじゃなく、東宝もぜひ観にいらしてくださいね!」
一介のCAにも、とても礼儀正しく、すてきな暗殺者さまのご搭乗だった。
帝国劇場で高嶋ルキーニと再会
ときは流れ、2012年。
わたしが愛しぬいた元月組トップスター・瀬奈じゅん氏が退団後、女となられて東宝でエリザベートを演じられたとき。
ルキーニは、あの高嶋政宏氏だった。
はじめて見る、生の舞台姿。
二階の最後列であったが、高嶋さんの迫力は、とんでもなかった。
「高嶋政宏」ではなく「ルキーニ」でしかなかった。
狂言回しのルキーニが、二千人近くの観衆を、いっきに帝国劇場からハプスブルク政権下のウィーンへと連れて行く。
二階席に届いてなお、有り余るほどの存在感。
偉大すぎて偉大すぎて、涙が出た。
その後。
この役は山崎育三郎氏と尾上松也氏にバトンタッチされた。
でもわたしはもう一度。
やさしい狂気のテロリスト、高嶋ルキーニに会いたい。
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