初心忘るべからず【ボーイング767 わが愛しき古巣】

初心忘るべからず【ボーイング767 わが愛しき古巣】

 

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ANAの空港カウンターにて

 

羽田発、伊丹行き。

大阪に帰省する際には、いつも全日空さんにお世話になっている。

 

空港カウンターで、「できれば通路側か、おとなりのいない席を」とお願いしたら、まんなかの席しか空いていないと言われた。 

聞けば、中型機のボーイング767だというではないか。

この飛行機は、2ー3ー2という座席配列のため、センターオブセンターは敬遠される傾向にある。

 

「76なんですね!」

希望した座席がとれなかったのに、はずんだような声を出したわたしを、若いグランドスタッフはキョトンとしたようすで見ていた。

 

B767(ボーイング767)

 

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ボーイング767型機は、わたしがCAデビューした飛行機である。

はじめて乗務した、巨大で未知なる空間。

通路は果てしなく長く、最後尾は見えない。

永遠にサービスが終わらないんじゃないかとさえ思った。

 

数年後。

より大きな機種、エアバス340型機が導入され、ボーイング767型機は東京に飛んでこなくなった。 

機材が大きくなり、ワークロードは増えたけれど、勤続年数が上がるにつれ、仕事には慣れていく。 

767時代に、自分がどんな気持ちで働いていたかなんて、すっかり忘れていた。

 

あのころに還る

 

搭乗案内のアナウンスが流れる。

その声に弾かれたように、ゲートにいる乗客たちが動きだす。

わたしは最後のほうに、おもむろに立ち上がる。

 

搭乗口付近にいる乗務員にむかえられ、機体に乗り込む。

入り口が、とても狭く感じる。

 

そして通路に向かいあった瞬間。

なぜだか、こみ上げるものがあった。

古巣に戻ってきたような気がした。

 

わたしを育み、一人前にしてくれた、母なる空間。

それはまるで胎内にいるような、とても穏やかで懐かしい気持ちになれる場所だった。

 

両サイドで、にこやかにサービスをする若いCAたち。

肌も笑顔も、はじけそうだ。

はにかむような優しいほほえみ。

お客さまと交わす心。

 

わたしは、こんな笑顔をお客さまに向けることができているか?

わたしのサービスに、驕りはなかったか?

入社当時と同じ飛行機が、CAになれてうれしくてたまらなかったころの自分を思い出させる。

 

初心忘るべからず

 

ベテランには、ベテランなりのやり方があると思う。

しかし今回、人さまのお世話ができて心から幸せだという、サービスマインドの根っこみたいなものを呼び覚まされた気がした。

 

あのころと比べて、B767の機内は小さく感じたが、通路だけはとても広かった。

重たいカートをうまく押せなくて、狭い狭いと思っていたのに。

いまじゃA340の極狭通路を、うしろ向きでも自由に操れる。

まるで背中にも、目玉がついているんじゃないかと思うくらい。

 

ながい乗務歴のなかで身についたもの、失ったもの。

時代の変化、自身の変化。

己を客観的に見つめ、足りないものは補う努力を。

手にした武器には、さらに磨きをかける。 

自分を取り巻くすべての要素を適切にアップデートして、つねに今がいちばんだと言える客室乗務員でありたいと思う。

 

 

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